大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和30年(行)95号 判決

原告 有限会社糸平

被告 中野税務署長

訴訟代理人 青木康 外三名

主文

一  被告が原告に対し昭和二九年一一月三〇日原告の法人税に関してした次の各処分を取り消す

(一)原告の昭和二五年一二月二七日より同二六年一二月二六日までの事業年度に関し、その所得金額を一、〇二一、九〇〇円とした決定処分の全部。

(二)原告の昭和二六年一二月二七日より昭和二七年一二月二六日までの事業年度に関し、その所得金額を二二八、二〇〇円(そのうち積立金額を七一、五〇〇円)とした決定処分の全部。

(三)原告の昭和二七年一二月二七日より同二八年一二月二六日までの事業年度に関し、その所得金額を一、四九〇、三〇〇円とした更正処分のうち九二、〇四二円を超え一、三四七、五〇〇円に至る部分。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告の求める裁判

主文と同旨の判決

二  被告の求める裁判

「1原告の請求を棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする」との判決。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)  原告は、肩書住所地に本店を有する有限会社であり、その法人税につき青色申告をなし得る法人であるが、被告に対し、左記法人税に関して次の各青色確定申告を行なつた。

(1) 原告の昭和二五年一二月二七日より同二六年一二月二六日までの事業年度(以下「本件第一事業年度」という。)の法人税に関し、昭和二七年二月二五日した欠損一、五二八、一九八円(当期損失金一、四九八、〇〇九円、繰越損失金三〇、一八九円)の申告。

(2) 原告の昭和二六年一二月二七日より同二七年一二月二六日までの事業年度(以下「本件第二事業年度」という)の法人税に関し、昭和二八年二月二六日した欠損八四九、三二八円(利益金六五五、七一四円、法人税より控除さるべき源泉所得税額二三、一五六円、繰越損失金一、五二八、一九八円)の申告。

(3) 原告の昭和二七年一二月二七日より同二八年一二月二六日までの事業年度(以下「本件第三事業年度」という。)の法人税に関し、昭和二九年二月二六日した所得金額九二、〇四二円(利益金九五八、一七〇円、これより控除すべき利益配当金二一、〇〇〇円、法人税より控除すべき利益配当金二一、〇〇〇円、法人税より控除すべき源泉所得税額四、二〇〇円、繰越損失金八四九、三二八円)の申告。

(二)  ところが、被告は、原告に対し、いづれも昭和二九年一一月三〇日、主文一の(一)ないし(三)記載のような決定または更正の各処分をした。

そこで、原告は、昭和二九年一二月二四日、被告に対し、右の決定および更正の各処分について再調査の請求をしたところ、昭和三四年一二月一九日に至り、東京国税局長は、本件第一事業年度および第二事業年度の法人税に関する決定についての審査請求を棄却し、本件第三事業年度の法人税に関する更正処分のうち一四二、八〇〇円を取り消し所得金額を一、三四七、五〇〇円とする旨の審査決定をし、原告に通知してきた。

(三)  しかしながら、本件決定および更正の各処分は、(1)(イ)その通知書に法人税法第三二条の要求する「理由の附記」が欠けている点で、(ロ)また法人税法第三一条の四第一項にいう調査を十分に行なわないで推計の方法によつている点で、手続的な違法があるのみならず、(2)そもそも原告は右決定ないし更正処分をうけるべきいわれはないから、実体的にも違法である。

よつて、本件各決定処分および右更正処分中、審査決定により取り消されなかつた九二、〇四二円を超え一、三四七、五〇〇円に至る部分の取消しを求める。

二  被告の答弁

請求の原因(一)(二)は認めるが、(三)は争う。

三  被告の主張

A  手続上の適法性

(一) 法人税法第三二条の要求している「理由の附記」の具備

(1) 被告は本件各処分の通知書に次の事項を理由として附記した。

(本件第一事業年度分)

「借入金否認    二、五二〇、〇〇〇円」

(本件第二事業年度分)

「日掛預金計上洩れ    七五、五〇〇円

出資金〃          二、〇〇〇円

月掛預金〃        四一、二〇〇円

借入金容認      △五四六、一五九円

繰越欠損金控除否認 一、五二八、一九八円」

(本件第三事業年度分)

「償却超過       一一四、四三六円

建物売却益       五〇〇、〇〇〇円

売上計上洩れ      二五〇、〇〇〇円

月掛預金〃        七六、〇〇〇円

定期預金〃       二六〇、〇〇〇円

定期積金〃        三九、七五〇円

普通預金〃         五、三一〇円

当座預金〃         二、八〇五円

利益配当        △二一、〇〇〇円

借入金容認      △六二三、八四一円

月掛預金容認      △七五、五〇〇円

(2) 右の各附記理由は、法の要件を充たした適法なものである。

(イ) 青色申告法人の申告に対する決定または更正(以下この両者を併せて更正という。)を通知する際に更正の理由を附記すべきものとした法意は、青色申告制度の意義に照らし、青色申告法人が法規の定める帳簿組織を有していることを前提に税務官庁が更正手続において法人税法第三一条の四の規定の制限にしたがうべきことを更正の通知書に更正の理由を附記させることによつて保障するとともに、青色申告法人に対してその帳簿組織により得ない所以を明らかにして納得させ、じ後の帳簿組織の改善整備を期したものと解される。したがつて、附記理由の程度は右の法意にもとらないようなものでなければならないが、申告書に添附された決算書類、すなわちその計算の根基を帳簿組織から導き出して作成された決算書類の勘定科目の増減修正にかかるところのもの、あるいはこれと同視し得べき科目によつてその増減修正にかかるところのものを明らかにすれば附記理由として十分で、さらにその修正理由までも表示することを要しないと解しても、前記のような更正の理由を附記すべきものとした法意にもとらないということができる。

そうであるとすれば、本件更正の附記理由は、前記のように各勘定科目ごとにその増減修正額を示しているから、附記理由の記載として間然するところはない。

(ロ) ことに、本件の場合、原告の再調査請求の内容からみて、何が故に更正されたかの理由について原告は十二分に熟知していたことが窺知されるばかりでなく、審査決定の附記理由からみても更正の理由は一層明確にされている。すなわち第一事業年度の借入金否認に関する審査決定の理由は「貴社は借入金二、五二〇、〇〇〇円は事実存在しているから否認せらるべきでないとして再調査の請求をされていますが、審査の結果、貴社の計上した借入金は、貴社の取得した権利金債権と相殺さるべきものでありますから、当該借入金は貴社の債務とは認められません。したがつて、貴社の請求には理由がありませんので棄却します。」というのであるが、この決定理由は、借入金否認の判断の根拠をも明らかにしているので、更正の理由は、これによつて、より明確にされている。

第二事業年度の更正に関し、原告が再調査請求の不服の事由として掲げているところは、「当社自昭和二六年一二月二七日至同 二七年一二月二六日事業年度の所得計算に当り、代表者個人名義の日掛預金七五、五〇〇円及び出資金二〇〇〇円、西岸ユキ名義の月掛預金四一、二〇〇円をいずれも会社の所得なりと認めて所得金額を二二八、二〇〇円と決定した旨の通知書を一二月一六日受領しましたが、右はいずれも誤りでありますから、何とぞ御再調の上、右の決定をお取り消し願います。」というのである。この不服の事由によれば、原告が、更正の内容を了知していたことは至極明瞭であるといわなければなるまい。これにこたえて、審査決定の理由は「貴社は、日掛預金七五、五〇〇円、月掛預金四一、二〇〇円、出資金二、〇〇〇円は、いずれも個人のもので法人のものでないとして再調査の請求をされていますが、審査の結果、代表者個人および西岸ユキ個人の収入源泉、資金繰状態等よりみて、個人の造成したものと認められませんので、貴申出には理由がありません。」として、請求を棄却しているのであるが、これによつて、原告は原処分と同一の結論の採られていることを理解することができるばかりでなく、否認の根拠をも示されているので、更正の理由は、更に明確となつているのであるから原告の理解に欠けるところはない。

第三事業年度の更正に関する原告の再調査請求の不服の事由とするところは「当社自昭和二七年一二月二七日至同 二八年一二月二六日事業年度の所得計算に当り、建物売却益五〇〇、〇〇〇円、売上計上洩二五〇、〇〇〇円、月掛預金七六、〇〇〇円、定期預金二六〇、〇〇〇円、定期積金三九、七五〇円、普通預金五、三一〇円、当座預金二、八〇五円はいずれも会社の所得として更正した旨の通知書を一二月一六日受領しましたが、右はいずれも誤りでありますから、何とぞ御再調の上更正をお取り消し願います。」というのであるが、審査決定においては、この申立てにこたえ、「貴社は更正処分は過大であるとして再調査請求をされていますが、審査の結果減価償却超過額および定期積金については貴申出に理由があり、又普通預金計上洩れは四、〇一八円が正当でありますが、建物売却益五〇〇、〇〇〇円、売上二五〇、〇〇〇円、月掛預金七六、〇〇〇円、定期預金二六〇、〇〇〇円、当座預金二、八〇五円はいずれも全額計上洩れと認めます。以上により更正処分には一部誤りが認められますので、一部取消しの結果、所得金額、税額、重加算税額は上欄記載のとおりとなります。」という決定理由を附しているのである。このような経緯からみれば、本事業年度の更正理由も、第二事業年度の場合と同様、一層明確にされているばかりでなく、原告もその内容を十二分に了知していたとみられるのである。

このように、更正の附記理由の意味内容を相手方が了知し、審査決定の段階でさらにそれが明確とされているような場合は更正の附記理由が簡単であるとの一事をもつて更正を違法であるということは相当でない。

(ハ) 右附記された各理由の内容は本訴における被告の主張内容と若干異なる点があるかも知れないが、その大綱は変らないのであつて、理由のすり代えが行なわれているとはいえないのみならず、元来更正処分の本質は課税標準、税額の更正にあるのであつて、その通知書に附記される「理由」というものは更正処分に附随する性質のものに過ぎないから、その内容が誤つていたとしてもこれをもつて直ちに理由の記載を欠くに等しい場合と評価するのは相当でなく、更正された課税標準、法人税額そのものに誤りがない以上、附記された理由の如何によつて更正処分自体の適法性が左右されることはないと解すべきである。

(ニ) 法人税法第三一条の四第一項の遵守

青色申告法人の青色申告に対し更正をする場合には、その手続として法人税法第三一条の四第一項により、その課税標準等を推計によつて算出することができず、必ず同条項にいう調査の手続によることを要するわけであるが、同条項は、その方法として、先ず但書において当該申告書およびその添附書類(決算書類)の調査のみによつて更正をなし得ることを規定し、次いで本文において当該法人の帳簿書類(元帳、仕訳帳等)を調査して更正をすることを規定する。そこで、被告も本件において、先ず原告の申告書およびその添附書類について十分調査したうえ、原告方に二日間臨戸して調査し、さらに銀行等につき数日に亘る調査を重ね、それら調査の結果に基づいて原告会社の帳簿書類の記載事項の検討を遂げ、本件各処分を行なつたものである。

B  実体上の適法性

(本件第一事業年度分について)

(一) 本事業年度について、原告は、前事業年度より三〇、一八八円の繰越欠損金があり、一、四九八、〇〇九円の当期欠損金を生じた旨の法人税の確定申告書を提出したが、前事業年度においては欠損金がないとの申告をしており、また当期についても次に述べるように借入金二、五二〇、〇〇〇円は否認さるべきもので、かえつて、一、〇二一、九九一円の所得があることが判明したので、本件更正をしたものである。

(二) 借入金二、五二〇、〇〇〇円を否認した根拠は次のとおりである。

原告は本事業年度中、訴外興産信用金庫から二、六五〇、〇〇〇円を借り入れ、内一三〇、〇〇〇円を返済し、本事業年度末において、同金庫に対し、二、五二〇、〇〇〇円の債務を有していた。しかしながら、原告名義で借入れがなされるに至つた経緯をみると、実際に弁済責任を負うているのは訴外佐野ほか一三名であり、原告が借受人になつているのは名義上だけであるとみられるのである。すなわち、原告は、訴外佐野ほか一三名に対してその所有のマーケツトを賃貸していたが、東京都の区画整理に関連して紛争が生じ、昭和二六年春右佐野ほか一三名に対して家屋明渡しの請求訴訟を提起した。その結果、同年一〇月二六日双方の間に次のような内容の民事調停が成立した。

(イ) 訴外佐野ほか一三名は建築費を負担して東京都新宿区角筈一丁目七九六番地上に木造モルタル塗瓦葺二階建建物一棟延坪一二一坪(以下本件建物という。)を新築と同時に原告に引き渡す。

(ロ) 訴外佐野ほか一三名は右の建築費二、一五〇、〇〇〇円および原告への贈与金五〇〇、〇〇〇円に充当するため、原告名義で興産信用金庫から二、六五〇、〇〇〇円を借り入れ、同人らはその連帯保証人となる。

(ハ) 訴外佐野ほか一三名は、右借入金の元利弁済に充当するため、毎日五、二五〇円ずつ原告に支払う。

この調停条項によると、右借入金二、六五〇、〇〇〇円は、本件建物を建築する訴外佐野ほか一三名の建築費用と原告への贈与金に充てられるものであるから、たとえ原告が借入名義人となつていても、その実質は訴外佐野ほか一三名の借入金であるといわなければならない。したがつて、被告はこの借入金の実体に着目して借入金を否認して法人税の所得の計算上益金に算入すべきもの(負債勘定に虚無の借入金が計上されている場合、これを存在しないものとして否認した場合は、簿記会計の原理からみて、それだけの利益が発生する。)と認めたのである。ところで、原告は、本事業年度末までに興産信用金庫に一三〇、〇〇〇円を返済し、これを佐野ほか一三名から受けるべき雑収入として処理しているが、被告の右に述べた見地に立てば原告は立替払をしたというに過ぎないから、被告は、これを控除した二、五二〇、〇〇〇円を益金に加算して更正したものである。また、原告の借入金であるという前提に立つと、原告は二、六五〇、〇〇〇円を佐野ほか一三名から取り立て興産信用金庫に払い込むという関係に立つから、原告は借入れを右佐野ほか一三名に肩替りしたということになり、佐野ほか一三名に対し貸付金債権を取得する。この段階においては借入金(負債)と貸付金(資産)とが見合勘定となつているので損益が発生したことにはならないが、原告は右二、六五〇、〇〇〇円を佐野ほか一三名から受け入れているので、この受入現金は佐野ほか一三名から贈与を受けたということになり、原告の法人所得の計算上益金に計上されなければならないのである。

したがつて、被告が、本事業年度中興産信用金庫に返済された一三〇、〇〇〇円を控除した、二、五二〇、〇〇〇円を益金に算入して更正したことは正しいといわなければならない。

さらに、原告は訴外佐野ほか一三名から本件建物の贈与を受けたのであるという見方をすれば、建物の価額をいくらに評価し、いくらの贈与益を受けたかが問題となるが、原告の第一事業年度の決算書によれば、本件建物の価格は二、七九二、〇二八円(自家用店舗内部施設二一一、四六〇円、電気工事一六、八六六円、水道衛生工事一八、八一八円、計二四七、一四四円を含む。)である。したがつて、原告は、調停条項による建築資金二、一五〇、〇〇〇円、贈与金五〇〇、〇〇〇円合計二、六五〇、〇〇〇円の借入金額を超えて本件建物を建築したことになるが、この超える部分の建築費用は原告自ら負担したことになるから、結局二、六五〇、〇〇〇円に相当する建物の贈与を受けたことになる。そうであるとすれば、法人の所得計算上益金に計上すべき金額は、借入金を否認し、あるいは現金贈与を受けたものと認定した場合と同一となるから、いずれにせよ本件更正は適法である。

(本件第二事業年度分について)

(一) 本事業年度について、原告は、八四九、三二八円の当期欠損金がある旨の確定申告書を提出した。原告は、右確定申告書において法人税の計算上控除すべき利子に対する所得税額二三、一五六円(法人税法第一〇条第二項参照)を誤つて当期利益金に加算した記載をしているので、これを除算して正当欠損金を計算すると八七二、四八四円となるが、被告の調査によると、右欠損申告の内容には、左表のとおり計上洩れにかかる日掛預金等があることが判明した。そこで、それらの科目の金額を加算減算して所得金額を計算すると二二八、二二五円となるので、加算減算した科目金額を明らかにした前記更正の理由を附記して、更正を行なつたものである。

当期欠損金額

▲八七二、四八四円

(附記理由)

加算したもの

繰越欠損金控除否認

日掛預金計上洩れ

出資金計上洩れ

月掛預金計上洩れ

一、五二八、一九八

七五、五〇〇

二、〇〇〇

四一、二〇〇

減額したもの

借入金認容

▲五四六、一五九

差引課税所得金額

二二八、二五五

(二) 更正理由の内容は、次のとおりである。

1 繰越欠損金控除否認 一、五二八、一九八円

原告は、前事業年度の決算報告書に計上された欠損金額一、五二八、一九八円を、本事業年度において、前記繰越欠損金額として計上しているが、前記のとおり、前期においては欠損を生じていないから、これを否認して所得計算から除外したのである。

2 日掛預金計上洩れ 七五、五〇〇円

原告代表者岡田儀平個人名義で昭和信用金庫新宿支店にしていた日掛一、五〇〇円、日掛一、〇〇〇円の二口の預金があり、本事業年度末において右預金額の合計額は七五、五〇〇円であつたが、右岡田の収支状況等からみて、これは原告の売上現金によつて払い込まれたものであると認められた。しかるに、右日掛預金は原告の決算面から除外されていたので、益金に加算したのである。

3 出資金計上洩れ 二、〇〇〇円

原告代表者岡田儀平個人名義で昭和信用金庫に二、〇〇〇円の出資金を有していたが、これも原告のものと認められたので、益金に加算したのである。

4 月掛預金計上洩れ 四一、二〇〇円

原告会社に居住していた原告の使用人西岸ユキ名義で加入していた第一相互銀行の月掛二、八〇〇円の二口の無尽は右西岸の収支状況、給付金の使途等からみて原告の売上金によつて払い込まれていたものと認められたので、本事業年度における掛金四一、二〇〇円を益金に加算したのである。

5 借入金認容 ▲五四六、一五九円

原告は、前記調停条項にしたがい佐野ほか一三名より支払われた金員を雑収入として受け入れ、これに見合う借入金を減少する計理をしていたが、被告は、前期において右借入金を否認し、法人所得計算上これを益金に計上したので、原告の計理を認めれば、右雑収入は二重に課税されることとなるので、原告が雑収入の計上に対応して減額した借入金相当額の計算を容認する―借入金認容―という表現で(負債の減少であるから利益となるという見地に立脚して)これを除算したのである。

(本件第三事業年度分について)

(一) 本事業年度において、原告は、九五八、一七〇円の当期利益金がある旨の確定申告書を提出したが、被告の調査によると、右申告には左表のとおり誤りのあることが判明したので、それらの科目金額を加算、減算し、所得金額を一、四九〇、三三〇円と算定し、加算、減算したそれぞれの科目金額を明らかにした前記更正の理由を附記して更正した。

当期利益金額

九五八、一七〇円

(附記理由)

加算したもの

償却超過

建物売却益

売上計上洩れ

月掛預金計上洩れ

定期預金計上洩れ

定期積金計上洩れ

普通預金計上洩れ

当座預金計上洩れ

一一四、四三六円

五〇〇、〇〇〇

二五〇、〇〇〇

七六、〇〇〇

二六〇、〇〇〇

三九、七五〇

五、三一〇

二、八〇五

減算したもの

利益配当

借入金認容

日掛預金認容

▲二一、〇〇〇

▲六二三、八四一

▲七五、五〇〇

差引当期利益金額

一、四八六、一三〇

法第一〇条第二項により益金に算入すべき利益配当に対する所得税額

四、二〇〇

課税所得金額

一、四九〇、三三〇

(二) 更正理由の内容は次のとおりである。

1 償却超過 一一四、四三六円

原告の固定資産等の減価償却額の計算は一一四、四三六円だけ過大になつていたので、これを否認した。

2 建物売却益

原告は、昭和二八年一二月二〇日、訴外指田幸三に対し、本件建物のうち原告使用部分(延三〇坪)を四、四〇〇、〇〇〇円で売却しながら、三、九〇〇、〇〇〇円で売却したように計理していたので、その差額五〇〇、〇〇〇円を益金に加算したのである。

3 売上計上洩れ 二五〇、〇〇〇円

原告代表者岡田儀平個人名義で昭和信用金庫新宿支店に昭和二八年三月一一日より同年六月一二日の間に日掛一、〇〇〇円、同一、五〇〇円の二口の日掛預金がなされ、その額は計二五〇、〇〇〇円となつたが、右岡田の収支状況等からみて、これは原告の売上金中より払い込まれたものと認められたので、益金に加算したのである。

4 月掛預金計上洩れ 七六、〇〇〇円

前記西岸ユキ名義で第一相互銀行に月掛三、八〇〇円の二口の掛金がなされており、本事業年度における掛金は計七六、〇〇〇円となつたが、これは前事業年度における西岸名義の掛金と同様、原告のものと認められたので、益金に加算したのである。

5 定期預金計上洩れ 二六〇、〇〇〇円

原告代表者岡田儀平個人名義で昭和信用金庫新宿支店に昭和二七年以降二口の日掛預金がなされていたが、本事業年度中の満期日に引き出されて一五〇、〇〇〇円と一〇〇、〇〇〇円の定期預金に切り替えられ、右定期預金の抽せん当選金一〇、〇〇〇円を生じた。しかし、右岡田の収入状況等からみて、これは原告のものと認められたので、益金に加算したのである。

6 定期積金計上洩れ 三九、七五〇円

原告代表者岡田儀平は昭和信用金庫新宿支店に月掛六、六二五円の定期積金をしていたが、その積金合計三九、七五〇円は原告の帳簿に記載されていなかつたので、これを益金に加算したのである。(この積金は、訴外三橋峯雄が原告代表者岡田儀平に対する借入金の弁済にあてるため、岡田名義で積み立てていたものであることが、審査の段階で判明したので、取り消された。)

7 普通預金計上洩れ 五、三一〇円

原告の昭和信用金庫新宿支店の普通預金口座の期末残高と原告の帳簿残高を対比すると、前者に比し後者は五、三一〇円だけ少なかつたので、その差額を益金に加算したのである。(審査の段階では、計算誤謬があり、一、二九二円だけ減額すべきものであることが判明したので四、〇一八円と修正された。)

8 当座預金計上洩れ 二、八〇五円

原告代表者岡田儀平名義で昭和信用金庫新宿支店に当座預金口座があり、本事業年度末における残高は二、八〇五円であつたが、これはその出入関係ならびに原告が個人会社であること等の点からみて、原告のものと認められたのでその期末残高二、八〇五円を益金に加算したものである。

9 利益配当 ▲二一、〇〇〇円

原告申告どおり、利益金額から控除すべき利益配当額二一、〇〇〇円(法第九条の六参照)の控除を認めたものである。

10 借入金認容 ▲六二三、八四一円

前事業年度の場合と同様、原告が雑収入として計上したものをそのまま容認すれば二重課税となるのでこれを除算したのである。

11 日掛預金認容 ▲七五、五〇〇円

5の定期預金計上洩れ二六〇、〇〇〇円中には、前事業年度において払い込んだ日掛預金七五、五〇〇円が含まれているので、これを除算したものである。

(三) 原告は、本件各事業年度の更正処分には承服できないという理由で被告に対して再調査の請求を行なつたが、三か月を経過しても決定がなかつたため審査の請求とみなされ東京国税局協議団により審理された結果、本件第一、二事業年度分にかかる請求は理由がないものとして棄却されたが第三事業年度についての更正処分については、次のように請求は一部理由があるものとされ、課税所得金額の一部一四二、八〇〇円を取り消す旨の決定がなされるに至つた。

更正にかかる科目

金額

協議団の認定額

更正額より減ずべき額

減価償却超過額

定期積金計上洩れ

一一四、四三六円

三九、七五〇

一二、七一六円

一〇一、七二〇円

三九、七五〇

普通預金計上洩れ

五、三一〇

四、〇一八

一、二九二

一四二、七六二

したがつて、本事業年度における更正の科目、金額は次のとおり変更されるに至つた。

加算したもの

償却超過

建物売却益

売上計上洩れ

月掛預金計上洩れ

定期預金計上洩れ

普通預金計上洩れ

当座預金計上洩れ

一二、七一六円

五〇〇、〇〇〇

二五〇、〇〇〇

七六、〇〇〇

二六〇、〇〇〇

四、〇一八

二、八〇五

減算したもの

利益配当

借入金認容

月掛預金認容

▲二一、〇〇〇

▲六二三、八四一

▲七五、五〇〇

以上のとおりであるから、本件各決定処分および本件更正処分中審査決定により取り消されなかつた部分には何らの違法もない。

四  被告の主張に対する原告の認否および反論

A  手続上の違法性

(一) 理由附記について

(1) A(一)の(1)記載の被告主張事実は認める。

(2) しかし、本件附記理由は法の要件を充たしたものとはいえず違法なものである。

(イ) 被告の主張する「……決算書類の勘定科目の増減修正にかかるところのもの、あるいはこれと同視し得べき科目によつてその増減修正にかかるところのもの……」の意味は必ずしも明らかではないが、勘定科目の増減修正額そのものを意味するもののようである。そうであるとすれば、それは更正の理由ではなくて、更正それ自体である。おもうに、更正の理由とは勘定科目を増減修正するに至つた認定の根拠なのである。そして、「所得税法第四五条第一項の規定は、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保障したものであるから、同条第二項が附記すべきものとしている理由には特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解するのが相当である。」と述べている最高裁判所の判決(昭和三六年(オ)第八四号、同三八年五月三一日第二小法廷判決)は所得税に関するものであるが、その考えは法人税法第三一条の四第一項と第三二条の解釈についても妥当する。

右の見地からするならば、本件各事業年度の更正の附記理由は法の要請を充たしているとは言い得ない。

(ロ) また、被告は「原告の再調査請求の内容からみて、何が故に更正されたかの理由について十二分に熟知していたものと窺知される。」と主張しているが、かりに原告が更正の理由を了知していたとしても、理由附記の要件を充たすべき被告の責務を免除するものではない。

さらに、審査決定の附記理由からみて更正の理由は明確にされているという被告の主張も失当である。すなわち、第一事業年度分についての審査決定の理由は「貴社の計上した借入金は、貴社の取得した権利金債権と相殺さるべきものでありますから、当該借入金は、貴社の債務とは認められません。」となつたいるから、前記原処分の附記理由を変更したものといえる。のみならず、右の権利金債権とは何を意味しいかなる内容のものか明らかにされておらず、権利金債権の存在の資料も示されていない。また借入金と権利金債権とが相殺される理由の説明もない。さらに、相殺されるという以上、借入金は債務として存在することが明白であるにかかわらず、借入金は債務とは認められないという矛盾を含んでいる。

第二事業年度分についての審査決定の理由「貴社は日掛預金七五、五〇〇円、月掛預金四一、二〇〇円、出資金二、〇〇〇円は、いずれも個人のもので法人のものでないとして再調査の請求をされていますが、審査の結果、代表者個人および西岸ユキ個人の収入源泉資金繰状態等よりみて、個人の達成したものと認められませんので、貴申出には理由がありません。」も、更正の理由を明確にしていない。問題は、何月何日の何の売上金が記帳されないまま預金や出資金に化したかを信憑力ある資料を摘示して明らかにしているかどうかである。さらに、第三事業年度分についての審査決定には「貴社は更正処分は過大であるとして再調査請求をされていますが、審査の結果、減価償却超過額および定期預金については貴申出に理由があり、又普通預金計上洩れは四、〇一八円が正当でありますが、建物売却益五〇〇、〇〇〇円、売上二五〇、〇〇〇円、月掛預金七六、〇〇〇円、定期預金二六〇、〇〇〇円、当座預金二、八〇五円はいずれも全額計上洩れと認めます。……」との理由が附されているが、これについても第二事業年度分についての審査決定理由について述べたと同様なことがいえる。

(ハ) 更正処分に附記された理由がかりに誤つていても、通知された課税標準等の更正が正当である限り、更正処分は適法に成立したものと解すべきであるという被告の主張は争う。被告のように解すると、青色申告にかかる更正の通知に理由の附記を認めた趣旨は全く没却される。

(ニ) 更正のための調査

青色申告による課税標準等を更正することができるのは、申告書およびその添附書類の調査により課税標準等の計算に誤りがあることが明らかである単純な場合は別として、その他の場合は帳簿書類を調査することを必要とし、その調査手続を経て課税標準等の計算に誤りがあることが認められる場合に限るのである。しかるに、本件各更正をするに際して課税標準等の計算に誤りがあることが認められるといえる程度の調査をしていない。被告の職員が原告会社に来て調査をしたのは、わずか一日半に過ぎない。したがつて、この間に、本件各事業年度に関する原告方帳簿書類を十分調査しうるはずがなく、ましてその取引先調査など行なえるはずがない。このことは、更正理由として掲げているところを客観的な資料によつて証明できないことをみても明らかである。

B  実体上の違法性

(本件第一事業年度分について)

(一) 被告の主張(一)記載の主張事実は、原告の申告内容の点を除いて他は争う。

(二) 被告の主張(二)記載の主張事実中、原告がその所有マーケツトの賃借人訴外佐野らに対して家屋明渡請求の訴えを提起し、訴訟の係属中に調停に付され、被告主張の日に民事調停が成立したこと、調停条項には被告主張の(ロ)(ハ)のような約定があること(ただし、(ロ)の「建築費および贈与金」とは本件建物賃貸借についての権利金を意味する。)、右民事調停の結果に基づき、右佐野らを連帯保証人として訴外興産信用金庫から二、六五〇、〇〇〇円を借り受けたこと、原告が本事業年度末までに興産信用金庫に一三〇、〇〇〇円を返済し、雑収入として計理していることは認めるが、その余は争う。

被告主張の興産信用金庫からの借入金はあくまで原告の債務であつて、原告は名義上の債務者であり実質上の債務者は佐野ほか一三名であるというようなことはない。また佐野ほか一三名の支払う日賦金は建物賃借についての権利金の割賦であり、これを益金に計上しなければならないとしても現実に支払われる年度の益金に計上するのが相当であり、権利発生主義によるべきではないし、佐野ほか一三名が建築費を負担して本件建物を建築するなどという約定は全くなく、本件建物は当初より原告の所有であるから、被告の主張するような贈与益はない。

(本件第二事業年度分について)

(一) 被告の主張(一)記載の主張事実中、原告の申告内容および被告主張のような理由附記のもとに更正がなされたことは認めるが、その余は争う。

(二) 被告の主張(二)記載の主張中、

1について、原告が一、五二八、一九八円を、本事業年度において前期繰越欠損金額として申告したことは認めるが、その余は争う。

2ないし4について、原告会社代表者岡田儀平が本事業年度中に訴外昭和信用金庫新宿支店に日掛預金二口計七五、五〇〇円および出資金二、〇〇〇円を有し、原告会社使用人西岸ユキが第一相互銀行に月掛預金四一、二〇〇円を有していることは認めるが、その余は争う。

同人らは自己の収入により右預金等をしたものであり、原告の売上金によつて払い込んだものではない。

5について、原告が前記佐野らから支払を受けた金額と興産信用金庫に返済した借入金の額とは異なるから、「原告は、前記調停条項にしたがい訴外佐野ほか一三名より支払われた金員を雑収入として受け入れ、これに見合う借入金を減少する計理をしていた。」ことを前提とする借入金認容の措置は誤りである。

(本件第三事業年度分について)

(一) 被告の主張(一)記載の主張事実中、原告の申告内容および被告主張のような理由附記のもとに更正がなされたことは認めるが、原告の申告内容に被告主張のような誤りはない。

(二) 被告の主張(二)記載の主張中、

1について、のちに審査決定により償却超過額は一二、七一六円とされた。

2について、争う。

3について、原告代表者岡田儀平個人名義で被告主張の預金がなされていたことは認めるが、これは名義だけのことであつて、その実体は原告の預金であつたが、原告はすでに右預金の満期日にこれを引き出し、これをもつて昭和信用金庫に対する原告の借入金債務に充当している。

4について、前記西岸ユキが被告主張のような二口の預金を有していることは認めるが、右預金が原告のものであるとの主張は争う。

5について、原告会社代表者岡田儀平個人が被告主張の各定期預金を有していたことは認めるが、右預金が原告のものであるとの主張は争う。

6について、審査決定によりすでに取り消されていることは被告の主張しているとおりである。

7について、審査の段階で五、三一〇円ではなくて四、〇一八円と修正されたことは認めるが、その余は争う。

原告の昭和信用金庫に対する普通預金は残高一一、〇三〇円のもののみであり、しかも右のうち真に原告の預金であるのは原告の帳簿残高のとおり、八、五二五円に過ぎず、その差額二、五〇五円は、原告会社代表者岡田儀平個人の預金であつて、これを右金庫の集金人が誤つて原告の口座に入れたものである。

8について、原告会社代表者岡田儀平個人が被告主張の預金を有していることは認めるが、右預金が原告のものであるとの主張は争う。

9について、認める。

10について、本件第二事業年度分についての(二)の5について述べたと同様な理由により、被告の措置は誤りである。

11について、被告主張の預金中には前年度において払い込まれた日掛預金七五、五〇〇円が含まれていることは認めるが、5について述べたように被告主張の預金は原告のものではないから、被告主張のようなことは問題にならないのである。

(三) 被告主張(三)中、事実関係は認める。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  争いのない前提事実

請求の原因(一)(二)は当事者間に争いがない。

二  本件決定および更正処分の適否

まず、本件各処分は手続的にみて違法かどうかの問題を理由附記の点から検討することとする。

(一)  原告は、その法人税につき青色申告の承認をうけた法人であり、本件各処分は青色申告書を提出した事業年度分に関するものであることは右のとおり当事者間に争いがないから、法人税法(昭和三七年法第六七号による改正前のもの。以下単に法人税法という。)第三二条により決定ないし更正処分の通知書に理由を附記すべき場合に該当する。

(二)  ところで、本件の場合、本件各処分の通知書には被告の主張A(一)の(1)記載のような理由附記がなされていることは当事者間に争いがない。

そこで、右理由附記が法人税法第三二条の要求を充たした適法なものかどうかについて考えてみよう。法人税法第三一条の四第一項は、青色申告書を提出することができる法人の青色申告書を提出した事業年度分の課税標準等についての決定または更正に関し、いわゆる推計課税を許さず、申告書ならびにこれに添附された書類の調査によりその申告にかかる課税標準等の計算が法の規定に従つていないことが明らかな場合すなわち帳簿書類の調査をするまでもない場合のほか、その帳簿書類を調査し、その調査により課税標準等の計算に誤りがあると認められる場合に限り、決定または更正をすることができる旨規定し、いわゆる実績調査を強制している。そして、同法条がこのように定めている趣旨は、青色申告制度は納税義務者に一定の帳簿書類の備付け、記帳を義務づけており(法人税法第二五条第二項)、納税義務者はこれに基づいて申告をするのであるから、その帳簿書類を無視して更正されることがないことを納税義務者に保障したものと解するのが相当である。そうであるとすれば、課税庁は、決定または更正する以上は帳簿書類の記載以上に信憑力があるとする資料を示して処分の具体的根拠を明らかにすることを要求されているものと解するのが相当である。したがつて、法人税法第三二条が決定または更正の通知書に附記すべきものとしている理由も、帳簿書類との関係において、帳簿書類の記載以上に信憑力があるとする資料を示して何故に決定または更正するのかを明らかにするものでなければならない、と解される(最高裁判所昭和三六年(オ)第八四号、同三八年五月三一日第二小法延判決。最高裁判所昭和三七年(オ)第一〇一五号同三八年一二月二七日第二小法廷判決参照)。そうであるとすれば、被告は、本件各処分の通知書にその理由として勘定科目の増減修正を示しているのみで帳簿書類との関係において帳簿書類の記載以上に信憑力があるとする資料を示して処分の具体的根拠を明らかにしていないから、法の要求する理由の附記をしたことにはならないといわざるを得ない。

(三)  つぎに、被告は、原告の再調査請求の内容からみてなぜ決定または更正されたかを熟知していたとみられるばかりでなく、審査決定の理由により決定または更正の理由が一層明確にされているから、原処分の附記理由は簡単でも、結局において違法とはならない旨主張するので、この点について考えてみよう。

(イ)  法人税法第三一条の四第一項と第三二条について前に述べたところから明らかなように、納税義務者たる青色申告法人は帳簿書類の備付け、記帳等厳格な義務を課されている反面、決定又は更正の妥当公正を担保するため、右に述べたような程度の理由を示されることなしには決定または更正されないことを保障されているものと解されるから、どの程度の理由附記を要するかの問題は、納税義務者がたまたま理由を推知できたか否かにはかかわりないといわなければならない。そうであるとすれば、かりに原告の再調査請求の内容等からみて原告が本件各処分の理由を了知していたことが窺われるとしても、法の要求を充たしたことにはならない。

(ロ)  また、本件第一事業年度分についての審査決定には「貴社の計上した借入金は、貴社の取得した権利金債権と相殺さるべきものでありますから、当該借入金は、貴社の債務とは認められません。」第二事業年度分の審査決定には「貴社は日掛預金七五、五〇〇円、月掛預金四一、二〇〇円、出資金二、〇〇〇円はいずれも個人のもので法人のものでないとして再調査の請求をされていますが、代表者個人および西岸ユキ個人の収入源泉・資金繰状態等からみて、個人の造成したものと認められませんので、貴申出には理由がありません。」、第三事業年度分についての審査決定には「貴社は更正処分は過大であるとして再調査請求をされていますが、審査の結果、減価償却超過額および定期預金については貴申出に理由があり、又普通預金計上洩れは四、〇一八円が正当でありますが、建物売却益五〇〇、〇〇〇円、売上二五〇、〇〇〇円、月掛預金七六、〇〇〇円、定期預金二六〇、〇〇円、当座預金二、八〇五円はいずれも全額計上洩れと認めます。……」との理由が附されていることは当事者間に争いがない。被告は、審査決定に右のような理由が附されていることをもつて、原処分の理由は明確にされ法の要求を充たしたと主張するのである。しかしながら、右審査決定の理由も、原処分の附記理由同様、帳簿書類との関連において帳簿書類以上に信憑力があるとする理由を示して処分の具体的根拠を明らかにしているとはいいえないばかりでなく、原処分に十分な理由附記をしていなくても、審査決定の段階で理由を補充すれば更正処分は違法とならないという主張は行政処分の違法性判断の基準時は処分時であるという点よりみても誤りである。

また、もし被告主張のような立場に立つとしたら、決定または更正には法の要求を充たさない簡単な理由を附記し、再調査請求または審査請求があつたもののみ(その数は原処分より遥かに少ないことが容易に推測される。)につき法の要求を充たす程度の理由を示すというような税務行政が行なわれてもこれを否定できないこととなり、前に述べた法の趣旨に反することとなることは明らかである。したがつて、原処分の理由附記は不十分であつても、審査決定の理由と相俟つて十分な理由附記となるというような主張は採用できない。

(四)  被告は、更正された課税標準・法人税額そのものに誤りがない以上、附記された理由如何によつて更正処分自体の適法性が左右されることはない旨主張しているけれども、法人税法第三二条の規定は訓示規定ではなく、通知書に法の要求する程度の理由附記を欠けば、処分自体の取消原因となることは、同法第三一条の四第一項・第三二条について前に述べたところから明らかである。

右のとおり、本件各処分は、理由附記が不備であり、この点で取消しを免れない。

(なお、もし手続の欠陥を理由として処分が取り消されても、被告があらためて適式な処分をなしうる場合であれば、実体的な理由により違法であるとの判断を得た方が判決の拘束力の点からみて原告に有利なことが考えられるから、原告は実体的な点について判断を得る利益があるといえるかもしれない。しかしながら、本件の場合、すでにあらためて決定ないし更正等をなしうる期間を過ぎている(国税通則法第七〇条参照。)から、本件各処分が手続上の違法を理由として取り消されても、あらためて適式な処分をうける虞れはない(国税通則法第七一条第一号は判決等による原処分の異動に伴い、その対象となつた事業年度分以外の事業年度分について更正決定等をすべき場合の特例を認めたものに過ぎず、判決等により取消しの対象となつた事業年度分について改めて更正決定等をなすべき期間の制限の特例を認めたものではないと解される。)。したがつて、本件各処分の実体上の適否については判断しない。)

三  以上の次第で、本件各決定処分および本件更正処分中、審査決定により取り消されなかつた所得金額九二、〇四二円を超え一、三四七、五〇〇円に至る部分の取消しを求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 田嶋重徳 小笠原昭夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例